今年から、「夏の色を探しに」という(あるアーティストの楽曲のタイトルでもありますが)タイトルで小説を勝手ながら連載しています。
今日はその続きを載せます。
草稿のつもりでとりあえず書いていき、出来上がり次第編集を加えてまとめて載せようと考えています。
5.人気店 (前期に続き)
会社はお昼休みで、オフィスに入るとラジオからはお昼のニュースが流れていた。数人の顔なじみに挨拶をし、課長のデスクへと向かう。課長からのお誘いに乗じたとはいえ、一度会社を辞めた人間である僕は、以前まではあたりまえのように出社していたこのオフィスにいることが場違いのような気がしてならなかった。しかしそれは単に僕が考えすぎているからで、かつての同僚たちは僕が会社を辞めたことに関して、それほど気にも留めていないかもしれない。とはいってもやはり、人間というもの、辞めたところに顔を出すのはいささか気力を要することではあるだろう。
「おはようございます。課長。」
日本では、職場に出社したときは昼夜問わず「おはようございます」と挨拶をする慣習になっている。この習わしはどういう経緯でいつ頃はじまったのだろう。
「ああ、待ちわびたよ。」
5分前に着いたのだが、課長は待ちわびていたらしい。少し疲れているように感じた。
「早速だけど、出発しようか。」
僕は了承し、辞める前に使用していたデスクを眺め、かつての同僚たちに会釈をしてオフィスを後にした。AB型の先輩はオフィスにいなかったので課長に聞いてみると、外回りをしているらしい。なにやら、大きな仕事を任されているようだ。私が勤めていた頃から、先輩は課長から大きな信頼を得ていた。女性という立場上、オフィスでそれほど存在感を感じさせない先輩だが、仕事に向き合う姿勢や仕事の質、それだけではないが「仕事のできる人」だった。それは単に私の直列の先輩だったからというのではなく、誰から見てもそうだった。
もしかすると私は、先輩の下で働いたがために会社を辞めたのかもしれない。というのは、できすぎる上司の元で働く部下は、上司の背中が遠すぎて自分の自信を無くしてしまうという記事を読んだからだった。
店まで公用車で向かうことにし、運転席に座った。運転すること15分後、お店の駐車場に車を止めた。
お店の前には6名ほど列ができていた。
「平日なのに列ができるお店がこの辺にあったなんて知りませんでした。人気なんですねえ。」と僕は言う。
「この街でつけ麺といったら、この店が一番だと思うよ。」
と課長は少し嬉しそうに言った。
<次回に続く>